2026年10月07日

少し歩くとふくらはぎが痛くなり、休むとまた歩けるようになる。足がいつも冷たくてしびれるといった症状にお悩みではありませんか。このような足の不調は、単なる筋肉痛や加齢のせいではなく、足の血管が狭くなったり詰まったりする動脈硬化が原因である可能性があります。足の血管の状態を、ベッドに横になってわずか5分ほどで痛みを伴わずに調べられるのが「ABI検査(足関節上腕血圧比検査)」です。本記事では、ABI検査の仕組み、検査費用や当日の流れ、結果の基準値から、異常が見つかった場合の対応まで、詳しく分かりやすく解説します。
「歩くと足が痛い…」それは血管の詰まり(動脈硬化)が原因かもしれません
中高齢期に差し掛かると増えてくる足の痛み。特に「歩き始めると数分でふくらはぎや太ももが痛くなり、立ち止まって少し休むと楽になる」という症状は、末梢動脈疾患(PAD)の典型的なサインです。これは、下肢の血管が動脈硬化によって狭くなり、歩行時に必要な酸素や栄養が筋肉に十分に行き届かなくなるために起こります。
動脈硬化は自覚症状がないまま進行することが多く、放置すると安静にしているときでも足が激しく痛むようになったり、最悪の場合は足の組織が壊死して切断を余儀なくされる深刻な事態を招くことがあります。自分の足の血管がどのような状態にあるのかを客観的に評価することは、将来の歩行機能を守り、深刻な合併症を予防するために極めて重要です。
ABI検査とは?足の動脈硬化を調べる簡単な検査
ABI検査(Ankle Brachial Index:足関節上腕血圧比検査)は、下肢の動脈の詰まり具合を評価するための最も基本的かつ重要なスクリーニング検査です。国内外の多くの循環器・動脈硬化ガイドラインにおいて、下肢血管障害が疑われる患者や糖尿病、喫煙者などの高リスク群に対して、最初に行うべき優先度の高い検査として推奨されています。
腕と足の血圧を比べるだけのシンプルな仕組み
健康な体であれば、横になった状態では、腕の血圧よりも心臓から遠い位置にある足首の血圧の方がやや高くなります。しかし、足の動脈に狭窄(狭くなること)や閉塞(詰まること)があると、その先の血流が滞るため、足首の血圧が腕の血圧よりも低くなります。ABI検査はこの原理を利用し、両腕と両足首の血圧を同時に測定して、その比率(足首の血圧を腕の血圧で割った値)を算出することで、血管が詰まっていないかを瞬時に調べます。
検査時間は約5分、痛みはほとんどありません
病院での血管検査と聞くと、注射や痛みを伴う痛々しい検査を想像されるかもしれませんが、ABI検査はそのような心配が一切ありません。寝台の上に仰向けに寝て、血圧測定用のカフ(帯)を両腕と両足首に巻きつけるだけです。自動測定機器がゆっくりとカフを膨らませて同時に血圧を測ります。圧迫感は普段の血圧測定と同じレベルであり、痛みはほぼありません。全体の測定時間はわずか5分から10分程度で、非常に手軽に行えます。
ABI検査でわかること|血管の詰まりと硬さを評価
ABI検査装置を使用することで、主に「血管の詰まり」と「血管の硬さ(弾力性)」の2つの指標を同時に評価することができます。これにより、下肢の血管状態だけでなく、全身の動脈硬化の進み具合を見極める手がかりにもなります。
①血管の詰まり具合(ABI:足関節上腕血圧比)
ABIは「足関節収縮期血圧」を「上腕収縮期血圧(高い方)」で割ることで算出されます。この数値により、下肢動脈に血流を阻害するような狭窄や閉塞が起きていないかが客観的に分かります。数値が低いほど、足の血管のどこかで血流が滞っていることを示しています。
②血管の硬さ・血管年齢(CAVI:心臓足首血管指数)
多くのABI検査機器では、血圧測定と同時に脈波(心臓から送り出された血液が血管を伝わる波)の速度を測定することができます。この指標は「CAVI(心臓足首血管指数)」や「baPWV(腕足首脈波伝播速度)」と呼ばれ、血管の硬さを表します。血管が硬く弾力性を失っている(動脈硬化が進んでいる)ほど、波の伝わる速度が速くなります。この測定から、患者の血管が実年齢に比べてどの程度進んでいるかを示す「血管年齢」を算出することが可能です。
こんな症状やリスクがある方はABI検査をおすすめします
足の不調がある方はもちろん、生活習慣病を指摘されている方は、症状が表面化する前から動脈硬化が進んでいる可能性があります。以下に該当する方は、ぜひ一度ABI検査を受けることを検討してください。
歩行時に足の痛みやだるさを感じる(間歇性跛行)
一定の距離を歩くと足が痛くなり、休むと回復してまた歩けるようになる症状を「間歇性跛行(かんけつせいはこう)」と呼びます。これは足の血管が狭くなって血流が十分に保てないサインの筆頭です。「歩くスピードが落ちた」「階段を登るのがおっくうになった」といった小さな変化も、放置せず検査するきっかけにしましょう。
足の冷えやしびれ、色の変化がある
血流が悪いと足先まで十分な熱が届かなくなり、慢性的な足の冷えやしびれが生じます。また、血流不全が進行すると足が白っぽく、あるいは青紫っぽく変色することもあります。傷ができた際になかなか治らない、小さな靴擦れから潰瘍ができてしまうといった皮膚のトラブルを繰り返す場合も、血管の詰まりを疑う必要があります。
糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病がある方
生活習慣病は血管の内皮を傷つけ、脂質が蓄積することで動脈硬化を著しく進行させます。特に糖尿病の方は痛みに鈍感になる(神経障害を合併する)傾向があり、足の血流が極端に悪化していても自覚症状に乏しいことがあります。足関節の血管が石灰化しやすいため、主治医と相談しながら定期的に足の評価を行うことが推奨されます。
喫煙者または過去に喫煙していた方
タバコに含まれるニコチンや一酸化炭素は、血管を収縮させて内皮細胞を傷つけ、動脈硬化のリスクを大幅に高めることが証明されています。喫煙歴がある方は末梢動脈疾患(PAD)の発症率が非喫煙者に比べて極めて高いため、早期の段階でABI検査を受けておく価値があります。
家族に心筋梗塞や脳梗塞の既往歴がある方
動脈硬化には遺伝的な体質も大きく関係しています。ご家族に若くして心筋梗塞や脳梗塞を患った方がいる場合、全身の血管が傷みやすい素因を持っている可能性があります。下肢の動脈硬化がある方は、同時に心臓や脳の血管でも同様に病気が進んでいるリスクが高いため、全身の評価としての入り口に最適です。
ABI検査の当日の流れと準備
ABI検査は事前の食事制限なども特になく、手軽に受けることができます。実際の検査手順について詳しく見ていきましょう。
【ステップ1】問診
まず医師や看護師による問診を受けます。現在感じている足の痛みやしびれの有無、普段の歩行状態、糖尿病や高血圧などの持病、内服中の薬、喫煙歴などを確認します。
【ステップ2】ベッドで安静にし、両腕・両足首にカフを装着
検査室に入り、仰向けでベッドに横になります。体の力を抜き、数分間リラックスして呼吸を整えます。測定の精度を高めるため、両側の腕と、ズボンの裾を上げて両足首にそれぞれ血圧測定用のカフ(マンシェット)を巻きつけます。
【ステップ3】血圧と脈波を測定(約5分)
カフが順番、あるいは同時に自動的に膨らみ、血圧と脈波が測定されます。測定中は体を動かしたり、おしゃべりをしたりせず、静かにしているだけで構いません。測定に要する時間は数分程度です。
【ステップ4】検査結果の説明
測定が終了したらカフを外し、ベッドから起き上がります。検査結果はその場、または受診当日の診察時に医師から説明されます。波形のデータやグラフ化された結果シートを見ながら、自分の血管の詰まり具合や血管年齢を確認できます。
検査前の注意点
検査を受ける際の留意点として、直前の激しい運動や喫煙は、自律神経を刺激して一時的に血管を収縮させ、測定値に影響を及ぼす可能性があります。そのため、検査開始の30分以上前には運動や喫煙を控え、落ち着いた状態で検査に臨みましょう。また、人工透析用のシャント(血管をつないだもの)が腕にある方、あるいは以前に乳がんの手術でリンパ節郭清を行った方は、その腕での血圧測定を避ける必要があります。これらに該当する場合は、必ず検査前に医師や技師へお申し出ください。
ABI検査の費用は?保険適用で自己負担はいくら?
医療機関でABI検査を受ける際、費用がいくらかかるかは受診の大きな判断基準になります。基本的には、症状があって受診した場合は保険適用となります。
保険適用の場合の自己負担額の目安(3割負担・1割負担)
ABI検査は公的医療保険が適用される生理学的検査です。診療報酬点数は「130点」と定められており、検査費用そのものは1,300円となります。窓口での自己負担額の目安は以下の通りです。
- 3割負担の方:約390円
- 1割負担の方:約130円
なお、これに加えて初診料や再診料、他の検査や処方箋料などが別途加算されます。
人間ドックなど自費診療の場合の料金相場
特に自覚症状がなく、健康診断や人間ドックのオプションとして自主的にABI検査を希望する場合は、保険適用外(自費診療)となります。自費診療の料金設定は各医療機関で異なりますが、一般的には概ね1,000円〜5,000円程度で設定されていることが多く、大きな負担をかけることなく予防健診に組み入れることができます。
ABI検査の結果の見方と基準値
検査結果の用紙には、さまざまな数値が記載されています。ここでは特に重要となる「ABI」と「CAVI」の基準値について解説します。
ABIの基準値:0.9未満は血管の詰まり(閉塞性動脈硬化症)の疑い
ABI値(足首血圧 ÷ 腕血圧)の判定基準は以下のようになります。
- 0.9〜1.4(正常範囲):下肢の血流は保たれており、大きな狭窄や閉塞の心配は低いです。
- 0.9未満(境界域・異常値):値が0.9を下回ると、下肢動脈のどこかで血流が狭くなっているか詰まっている可能性(末梢動脈疾患・閉塞性動脈硬化症)が高くなります。特に0.4未満の場合は「重症虚血」が疑われ、安静にしていても足が痛んだり傷が治らず、早急な治療が必要とされるケースがあります。
- 1.4超(血管の石灰化):数値が高すぎるのも問題です。血管壁が石灰化してカチコチに固まってしまうと、カフで圧迫しても血管が潰れず、血圧が実際よりも不自然に高く測定されます。糖尿病や末期腎不全(透析)の患者に多く見られ、この場合は足の指の血流を測る「TBI(足趾上腕血圧比)」など別の検査方法を検討します。
CAVIの基準値:9.0以上は血管の硬化(動脈硬化)の疑い
血管の硬さを表すCAVI(心臓足首血管指数)の基準値は以下の通りです。
- 8.0未満(正常範囲):血管のしなやかさが保たれている状態です。
- 8.0〜8.9(境界域):動脈硬化の進行に注意が必要な段階です。生活習慣を見直す目安になります。
- 9.0以上(動脈硬化の疑い):血管の壁がかなり硬くなっていると考えられます。高血圧や脂質異常症を治療していない方は特にリスクが高く、心筋梗塞や脳梗塞の引き金になりかねない状態ですので、適切な医学的管理が求められます。
検査で異常が見つかったら?その後の精密検査と治療法
もしABI検査の結果、基準値を外れたり異常が示唆されたりした場合は、決して自己判断で放置せず、血管の専門外来(血管外科、循環器内科など)で適切な対処を行いましょう。
より詳しい検査(血管エコー、CT、MRIなど)
ABIはあくまで血流の異常を検知するスクリーニング(ふるい分け)ですので、異常があればどこがどのくらい狭窄しているかを特定するために、以下の精密検査を行います。
- 下肢血管エコー(超音波検査):超音波で足の血管内のプラーク(脂質の塊)や血流速度を視覚的に観察します。体への負担がありません。
- 下肢CTアンギオグラフィー(CTA):造影剤を注射し、X線を用いて血管を3次元の画像で精密に描き出します。どこが詰まっているかを正確に診断できます。
- 下肢MRI(MRA):磁気の力を利用して、造影剤をほとんど使うことなく血管の画像を生成できます。腎臓への影響が懸念される場合に選ばれやすい検査です。
治療の基本は生活習慣の改善と薬物療法
治療の基礎となるのは、動脈硬化の進行を止めるための「生活習慣の改善」です。禁煙は不可欠であり、栄養バランスのとれた塩分控えめの食事、適度な有酸素運動(毎日少しずつ歩くなど、痛みに合わせながら無理のない範囲でのウォーキングが血管の発達を助けます)に努めます。これに加え、血液をサラサラにする抗血小板薬や、血管を拡張させる薬、さらには糖尿病・高血圧・高コレステロール血症をコントロールするための薬物療法が開始されます。
重症の場合はカテーテル治療やバイパス手術も
血管の狭窄や閉塞が著しく、少しの距離も歩けない状態や、足の傷が治らず重症虚血に至っている場合は、外科的アプローチによる「血行再建術」を行います。
- カテーテル治療(血管内治療):局所麻酔のもと、細い管を血管に通し、風船や金属の筒(ステント)を使って内側から血管を広げる、体への負担が少ない治療です。
- バイパス手術:詰まっている血管をまたぐように人工血管や自前の血管を移植し、新しい血液の通り道をつくる手術です。
ABI検査に関するよくある質問
読者の皆様から多く寄せられる質問に、専門医の知見を交えてお答えします。
Q. どの診療科で受けられますか?
ABI検査は循環器内科などのイメージが強いかもしれませんが、整形外科でも受けることができ、当院でも行っております。
「歩くと足が痛くなり、休むとまた歩ける」という症状は、血管の詰まりだけでなく腰部脊柱管狭窄症でも起こるため、
整形外科での診察とあわせてABI検査を行うことで原因を見極めやすくなります。
足の痛みやしびれ、歩きづらさが気になる方は、お気軽に当院へご相談ください。
Q. 検査結果はその日のうちにわかりますか?
ABI検査はコンピューターによる自動算出が完了するため、通常は検査が終わった直後から数分ほどで結果データが出力されます。多くの場合、検査当日のその後の診察において、医師から直接分かりやすく説明を受けることができます。
Q. ABI検査で異常があった場合、リハビリや運動は続けられますか?
足の血流の状態によっては、運動の内容や強さを調整する必要があります。軽度であれば、無理のない範囲でのウォーキングが血流の改善につながることもありますが、重症の場合は安静や専門的な治療が優先されます。自己判断で運動を中止したり増やしたりせず、医師に相談しながら進めることが大切です。
Q. どのくらいの頻度で受けるべきですか?
糖尿病、高血圧、脂質異常症などの慢性疾患をお持ちの方、または喫煙を続けられている方は、一年に1回程度のペースで定期的にABI検査を受けることが推奨されます。前回は正常であっても、徐々に動脈硬化が進行して数値が低下することがあるため、健康診断と同じ感覚で定期測定し、推移を追うことが大切です。
まとめ:足からのサインを見逃さず、ABI検査で血管の状態をチェックしよう
「少し歩くと足が痛むけれど、休めば何とかなるから」「年をとったせいだろう」と、症状を放置して受診を先延ばしにすることは極めて危険です。足の血流が滞っているサインかもしれない不調は、あなたの体の血管全体の危険信号でもあります。
ABI検査は、痛みなく約5分で足の血管状態がわかる手軽な検査です。しかも費用負担は保険適用で数百円程度と少額です。「まだ歩けるから大丈夫」と思わず、自分の大切な人生を自身の力で歩み続けるために、まずはかかりつけ医や専門クリニックを受診し、ABI検査で足の健康状態を可視化してみることから始めましょう。
この記事の執筆者

院長 草山 喜洋
資格・所属学会
- 日本整形外科学会専門医
- 医学博士
- 日本骨粗鬆学会認定医
- 日本リハビリテーション医学会認定医臨床医
- 日本体育協会公認スポーツドクター
- 日本整形外科学会認定リハビリテーション医
- 日本整形外科学会認定スポーツ医
- 日本整形外科学会認定リウマチ医
- 日本整形外科学会認定脊椎脊髄病医
- 日本人工関節学会認定医
- 身体障害者福祉法第15条指定医
- 難病医療費助成指定医